ネック:セドロ
指 板:エボニー
塗 装:ラッカー
糸 巻:ロジャース
弦 高:1弦 2.8mm/6弦 4.0 mm
〔製作家情報〕
1941年イギリス生まれ。オックスフォードに育ち、同地に工房を開きます。Robert Gobleのもとでハープシコードの製作を学び、またその他の楽器に対する造詣も深く、ヨーロッパ的な伝統に広く通暁した知性的な製作家として知られています。同国の名工デビッド・ホセ・ルビオの工房で1969年より職人としてギター製作に従事し、職工長としてPFのスタンプが許されます(PFのイニシャルが刻印されたルビオギターは現在も中古市場で愛好家の高い評価を得ています)。1975年に独立して工房を設立。最初はルビオ的な構造を踏襲したギターでしたが、これまでの研鑽とオックスフォード大学で学んだ経験をもとに、科学的な見地から音響と構造の関係を探求、独自の力木配置によるギターを製作し始めるようになります。その結果音色と音響は高度に洗練され、従来のギターでは得られなかった均整感、個性的な発音を備えた楽器となり、音響バランスにこだわる多くのプロギタリストたちから高い評価を得て、20世紀の最後に世界で最も売れたブランドの一つとなります。
〔楽器情報〕
ポール・フィッシャー製作 1994年製 Conservatoire(コンセルヴァトワール)モデル 640㎜のショートスケール仕様の Usedです。 Virtuosoと並んでこのブランドのフラッグシップモデルとなっているフィッシャー的個性に溢れた一本。注目すべきはその表面板内部構造で、彼が ’TAUT’ システムと名付けた格子状の力木配置。表面板上部はサウンドホール上側(ネック側)に2本、下側(ブリッジ側)に1本で計3本のハーモックバーで通常のスパニッシュスタイルですが、表面板下部は計4本のトランスヴァースバーが等間隔に設置され(うち一本はちょうどブリッジサドルの位置に設置されている)これらと直角に交差するように11本の長短の力木が板の木目に沿って等間隔に隅々にまで設置されており、精緻な格子状構造を形成しています。これらの力木とバーの高さと大きさは高音側と低音側とで同じサイズで加工されており、全体が均質な振動特性を得られるような工夫がされています。レゾナンスはAの上に設定されています。薄い表面板と格子状力木構造との組み合わせはオーストラリアの製作家グレッグ・スモールマンが開発したギターが有名ですが、スモールマンは表面板の木目に対し45度の角度で力木を交差させることで、菱形状の格子構造を表面板に行き渡らせるように作られています。
低音から高音までの全ての音が均質に、同じフェーズで響いているような整ったバランス感覚があり、どの音も互いに自然に繋がるような(ギターとしてはむしろ特異と言える)音響設計が試みられています。そしてそのフラットな音響の中で、一つ一つの音には表情の意外なまでの深さと多彩さがあり、また音楽的な身振り(スラ―、スタッカート、ヴィブラート、そして速い旋律等)における反応性も非常なものがあります。
割れなどの大きな修理履歴はございません。表面板はサウンドホール周辺やブリッジ下などに細かな弾きキズや摩擦痕等が集中して見られますが年代相応のレベル、また全体はラッカー塗装のひび割れが生じていますが現状で継続使用に問題ありません。横裏板は衣服などによる細かな摩擦あとと数か所の小さな打痕等のみで良好な状態。ネックは真っ直ぐを維持しており、フレットも適正値を維持しています。ネック形状は通常の厚みのDシェイプ。弦長が640㎜のショートスケール設定に加え、ナット幅は49.5mm、ナット弦幅も41.0mmとコンパクトなサイズ感になっています。糸巻はカナダの高級ブランドRodgers製を装着しており、こちらも現状で動作状況に問題ありません。